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エコキュートは、主に電気の安い夜間に翌日分のお湯を沸かします。
その特性上、基本的には深夜の静かな時間帯に稼働しますが、このとき発される騒音が度々問題になります。
「低周波による騒音問題」とはどのようなものなのでしょうか?
また、ご家庭でできる対策はあるのでしょうか?
ここではエコキュートの騒音問題とその対策方法について詳しく解説します。
どのメーカーにおいても、エコキュートのカタログの裏表紙にはこのような記載があります。
ヒートポンプ給湯器は、主に人が睡眠している深夜に運転するため、運転音による不眠等が一部報告されています。
三菱 エコキュート 家庭用エコキュート総合カタログより引用open_in_new
寝室や隣家に近い場所など騒音が気になる場所には据え付けないでください。
メーカーが自ら注意喚起を行うような音となると、相当大きな音が出るのかな、と想像してしまいます。では、実際の運転音について見ていきましょう。
エコキュートの運転音は、おおよそ50〜60dB(カタログ参照)です。これは家庭用クーラーの室外機の運転音と同程度か少し小さいくらいで、屋外で稼働している分には特段うるさいというほどの音ではありません。
この程度の音であれば、人の話し声や家電の音といった環境音に紛れるので、エコキュートの音だけが気になってしまうということはないでしょう。
注意が促されているのは、ヒートポンプユニットから発生する、単純な音の大きさとは別の「低周波音」と呼ばれる音の周波数なのです。
低周波音はヒートポンプユニット内のコンプレッサー(熱圧縮機)から発されます。
通常の音圧(音の大きさ)において、人間は20Hz以下の周波数の音を感知できないとされています。一方、このコンプレッサーが発する低周波音は約12.5Hzです。
つまり、人間はコンプレッサーから発生する低周波音を耳で捉えることはできません。
「聞こえないなら問題なさそうなのに」と思ってしまいそうですが、そう単純な話でもありません。
人間は低周波音そのものを聴き取ることができなくても、体が振動や響きを感じ取ってしまうことがあるからです。
「低周波音」は周波数が100Hz以下の音を指します。通常、人間が音として知覚することが難しい音域とされており、中でも20Hz以下の音は「超低周波音」と呼ばれます。
そのほか、低周波音には「遠くまで伝わりやすい」「振動や圧迫感をもたらす」といった特徴があります。
耳で聞き取ることができる身近な低周波音を挙げてみましょう。低周波音は、大型の機械や大規模な自然で多く発生します。
「どの音も聞いたことがあるし、普通に聞こえるよね?」と思われた方もいるのではないでしょうか。
例に挙げた音はそれぞれ周波数の幅が広く、私たちの耳で聞き取れる音もあれば、聞こえていない超低周波音も実際には鳴っているのです。
聞こえない音はそもそも音がしていないものと捉えてしまいそうになりますが、コウモリが発する超音波が聞き取れないように、超低周波音も日常の中に存在していることが分かります。
低周波音の例を挙げましたが、エンジン音や滝の音をうるさいと感じることはあっても、その音が原因で体調を崩すといったことは通常ありません。
実際、生活の中で発生するような大きさの低周波音が人体に直接的な影響を及ぼす可能性は少ないと考えられています。
騒音が問題視されるエコキュートにおいては、コンプレッサーが稼働する主な時間帯が、環境音が静まる夜間であることが問題となる一因と考えられます。
音は発生源から距離があるほど弱まり、音の大きさも徐々に小さくなります。低周波音も音の一種なので、発生源から距離があるほど音は弱く、小さくなります。建物などの遮蔽物がある場合、音はさらに小さくなります。
みんなが寝静まった住宅地で、隣家と密接して設置されたエコキュートが、遮蔽物の少ない場所で運転することで、昼間は気にならないような音が不快感を生じさせることがあるのです。
低周波音による健康被害は非常に多岐にわたります。
部位 | 症状 |
頭部 | 頭痛、締めつけ感 |
耳 | 耳鳴り、閉塞感、めまい |
手・足・肩 | 凝り、しびれ、怠さ |
心臓・循環器 | 吐き気、圧迫感、動悸、息苦しさ、血圧の上昇 |
全身・その他 | 疲労感、体の痛み、食欲不振、不定愁訴 |
精神面など | 幻覚、苛立ち、不眠、脱力感、不安、集中できない |
これらのうち一部の症状だけが間欠的に起こる人もいれば、いくつかの症状が複合的かつ継続的に起きる人もいます。
人体のほか、窓や戸が振動でがたつくといった建物への影響があることも確認されています。間接的ではありますが、こちらも一種の騒音問題と言えますね。
低周波音の感じ方には、大きな個人差があります。まったく影響を受けない人もいれば、ずっと頭の奥で音が響いているような感じがして頭痛やめまいを訴える人など、感じ方は様々です。
症状が出たからといって低周波音が聞こえているわけではないので、エコキュートが原因だと気付くまで時間がかかる場合もあるでしょう。
症状が出ない人からすれば、エコキュートが原因だとは信じ難いと考えてしまうかもしれません。
低周波音の感じ方にはどうしても個人差が発生してしまうので、相互理解が不可欠です。
2010年台には、エコキュートを原因とする健康被害トラブルが一時期社会問題となりました。下記はその中でも全国的に大きく取り上げられた訴訟の事例です。
2012年10月 群馬県在住の夫妻がエコキュートを原因とする健康被害を消費者庁に申し出。隣家の住民に損害賠償を求める。
2013年11月 エコキュートの撤去を条件に和解成立。
2014年12月 消費者庁の消費者安全調査委員会が経済産業省などに対し、再発防止に向けた対策を要求。
この訴訟問題はエコキュートのメーカーや商社、工務店の間でも大きな注目を集め、業界へ警鐘を鳴らしました。
設置業者にとっては、顧客へ商品を提案する際には設置場所を適切に選定する必要があると再認識する機会となりました。
2014年には、上記の事例と同様のエコキュートの騒音に関する苦情が59件もありました(環境省調べ)。
消費者庁は健康状態を訴える人の症状や近隣のエコキュート設置状況の調査を実施し、運転音が症状の発生に関与していると考えられると結論付けました。以下はその事例分析です。
分析内容 | 詳細(一部抜粋) |
健康症状 | 不眠(最も多く、引越し・避難する事案も)、頭痛、めまい、吐き気、耳鳴り |
時間的な関連性 | 設置時期と同時期に発症する者が多かった。移設や撤去で改善・解消する事案も見られた。 |
発症場所 | 主に寝室として使用している部屋であった。 |
設置場所 | 発症者の寝室から5m以下が13/19事案であった。 据付ガイドに沿って設置されているとは言い難いものが多く見られた。 |
個人差について | 同じ住宅に居住していても、症状を訴える者と訴えない者がいた。 |
騒音問題が取り沙汰され、当時に比べ現在のエコキュートは低周波音の発生を大幅に抑えることができるようになりました。
それでも、周辺環境や体質次第では、騒音の被害に遭ってしまう可能性がゼロだとは言い切れません。そのような場合に考えられる対応方法をご紹介します。
症状の程度にもよりますが、耳栓をしたりベッドの位置を変えることで症状が改善する可能性もあります。
また、しばらくすると環境音のひとつとして身体が慣れ、気にならなくなる場合もあります。一旦様子を見てから対処を判断することも視野に入れてみてください。
「実はうちではこんなことがあったのだけど、他のお宅にも影響があるかも」と教えてあげることで、相手にも現状を伝えることができるでしょう。
対処をとってもなかなか改善が見られない場合、直接相手に相談してみましょう。その際は揉め事にならないよう、強い口調でクレームを言いつけるような態度ではなく、あくまで相談をする控えめな姿勢で接してください。
また、後々言った言わないが出てこないよう、相談した内容を控えておくことも重要です。
相手方との関係次第では話を切り出しにくい場合もあるかもしれません。その場合、まずは手紙で伝えてみるのもひとつの手でしょう。
相手がエコキュートの騒音元となってしまっていても、その施工を行ったのは設置業者です。相談したからといって、相手自身には騒音に関する知識がなかったり、どうしていいか分からないと対策が遅れてしまうことも考えられます。
まずは低周波音やその影響について理解してもらうことが大切ですので、対処してほしい内容と併せて説明ができるよう、前もって準備しておきましょう。
もしもエコキュートの設置場所を変える必要がある場合には、専門の業者による施工が必要です。施工を行った業者とも連絡が取れるよう、連絡先を聞いておいてもよいでしょう。
エコキュートの低周波音は、自身やご家族にも影響を及ぼす可能性があります。
自身や家族が低周波音の影響を受けやすい体質の場合、やはり夜中に目が覚めてしまったり、頭痛がする、イライラするといったような症状が現れることがあります。
せっかく導入したエコキュートで生活の質が下がってしまうのは悲しいですよね。
そんな思いをしないため・させないためにも、最後にエコキュートの運転音、低周波音を軽減させる対策方法を紹介していきます。
低周波音の対策として、騒音対策によくある塀や壁で囲うといった方法にはあまり効果がありません。低周波音の抑制には、音の発生源に対策を施すことが効果的です。
騒音トラブルを回避するためにも、住宅の密集地などにエコキュートを導入する際は事前の対策が大切です。
既にエコキュートを設置してしまったという方も、後からできる対策があるので是非チェックしてみてください。
トラブルになった例の中でも多いのが、エコキュートを設置したすぐ隣が寝室や、屋内につながる換気口のそばだった、というケースです。
自宅の寝室近くを避けるのはもちろん、可能であれば、事前にお隣さんに事情を伝え、隣家の間取りや換気口の場所をお伺いしておくことがおすすめです。
壁があるからといって、低周波音が防げるわけではありません。狭く囲われた場所ではかえって音を増幅させてしまったり、材質によって音を反響させてしまうこともあるため、施工業者とは入念に打ち合わせを行いましょう。
社団法人日本冷凍空調工業会による「騒音等防止を考えた家庭用ヒートポンプ給湯器の据付けガイドブックはこちら
どうしてもガイドに沿った場所が見つからない場合や、既にエコキュートを設置済みで移設が難しい場合には、防音シートや防振材を使う方法があります。
防振シートや防振マットは、ヒートポンプに貼り付けたり下に敷くことで振動を吸収し、和らげることができます。
防音壁は、ヒートポンプの正面に設置することで低周波音の拡散を低減させることができます。
なお、防音壁は低周波音に効果があるものとないものがあるため、よく確認して選定する必要があります。
いずれも一定の効果が見込めますが、これらの対策には、ヒートポンプの周囲にある程度の空間が必要であることと、費用がかさんでしまうことが懸念点に挙げられます。
エコキュートの「電気の安い夜間に稼働し、翌日分のお湯を沸かす」という特性上、夜にヒートポンプユニットを稼働させることが騒音問題の一番の原因となってしまいます。
昼まであれば様々な環境音が重なることで、夜の就寝時ほど気にならなくなることが見込めます。
様々に対策をしたけれど改善が見られないし、移設をしようにも場所がないという場合、お湯を沸かす時間を見直すことも視野に入れましょう。
ただし、これはエコキュート最大のメリットを台無しにしてしまう選択でもあります。どうしても解決に至らないという場合の最終手段だと考えてください。
エコキュートの騒音問題で問題視されるのは、耳では聞こえない低周波音です。
身体に害を及ぼすことのある低周波音は、音として聞こえなかったり、感じ方に個人差がある分馴染みが薄く、その影響や対策方法はあまり広く知られていません。
メリットばかりが強調されることの多いエコキュートですが、こうした一面もあることを知っておくことも大切です。
一方で、一時訴訟問題にまで発展したエコキュートは、メーカーでの改良開発が進み、10年、20年前の機種と比較すると低周波音も大きく軽減されています。
設置場所に気をつけるなどして事前の対策を取っておけば、エコキュートの運転音が問題になる可能性は大きく低減させることができます。
またエコキュートを設置する前に、ご近所の方に「騒音があればすぐに教えてくださいね」と声をかけておくだけでも、トラブルを避けることができるでしょう。
設置工事の際には、近隣の方への気遣いを忘れず、取り付ける業者としっかり設置場所や対策について打ち合わせることが大切です。
■参考文献:環境省 水・大気環境局大気生活環境室.「よくわかる低周波音」.2019-03.(参照2022-07-17).
https://www.env.go.jp/air/teishuha/yokuwakaru/index.html
■参考文献:消費者庁 消費者安全調査委員会.「消費者安全法第23条第1項に基づく事故等原因調査報告書」.2014-12-19.(参照2022-07-17).
https://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_002/